研究トピックス
No.10 ゴツコラの認知機能改善には,抗酸化応答に関する
海馬や前頭前野でのシグナル伝達を促進が関与
ゴツコラ(セリ科ツボクサ 壺草Centella Asiatica)は,朝鮮半島,中国から熱帯アジア,南アフリカ,アメリカに分布,日本でも関東以西,琉球,小笠原に分布している。日本での「壺草」という名の坪は庭の意,庭や道端に生える植物を意味しているそうで,ちょうど今、夏の時期には,元気に緑の葉を広げている姿を見ることができる。
ゴツコラはインドのアーユルヴェーダや中国,ベトナムなどにおいて伝統的に用いられており,認知機能を高める効果があるとされている。風邪,外傷,火傷,皮膚の炎症,潰瘍,脳や神経機能の不調の改善に効果があるとして人気のあるメディカルハーブで,トリテルペノイドのマデカソシド,アジアチコシドなどを含み,これまでにも抗酸化作用が強いことが報告されている。
今回紹介する研究論文の筆者らは,これまでにゴツコラ水抽出物が,高齢者アルツハイマー病モデルTg2576マウスと野生型マウスの認知機能を改善し,酸化ストレス応答転写因子NRF2制御の抗酸化応答を誘発することを報告している。
本研究では,ゴツコラ水抽出物を投与することによる認知,記憶機能の改善効果について,マウスの行動への影響を検討することにより,抗酸化応答に関するメカニズムをさらに明らかにすることを目的とした。
実験の対象には,アルツハイマー病モデルである5XFADマウス(メスとオス),野生型マウス(7.6 +/- 0.6か月)を用いて,以下のように実験を進めた。
・ゴツコラ水抽出物を3週間摂取、その後,障害物記憶と状況に応じた恐怖記憶について行動試験を行った。
・アミロイドβ沈着に対するゴツコラの影響およびニューロンの酸化ストレスとシナプス密度については5週間後に調べた。
・ゴツコラの抗酸化活性は,酸化ストレス応答転写因子 Nrf2とNRF2により調節される抗酸化応答に関する遺伝子発現をみて検討した。
その結果,以下のことが確認された。
1)ゴツコラによる記憶改善は,性別,野生型/アルツハイマー病モデルのどれでも確認された。
2)ゴツコラ摂取によって,海馬と前頭前野のシナプス密度がわずかに増加した。
3)海馬のNRF2やその他のNRF2の標的酵素(NAD(P)Hキノンデヒドロゲナーゼ1,ヘムオキシゲナーゼ-1,グルタミン酸-システインリガーゼ触媒サブユニット)が増加した。
4)5XFADマウスの海馬と皮質でSOD1(活性酸素除去酵素)の減少が観察され,アミロイドβ蓄積との関連が示唆された。
これらの結果から,ゴツコラ水抽出物の摂取は,酸化ストレスの減少につながり,海馬や前頭前野においてニューロンでのシグナル伝達を向上させ,認知の改善につながることが示唆された。
今回の研究は,特に海馬や前頭前野などでの酵素活性や,アルツハイマー病でみられるアミロイドβの蓄積について,抗酸化応答との関連を調べており,ゴツコラの記憶や認知機能の向上についてのメカニズムや有効性をより明らかにしたものと言えるだろう。
〔文献〕Matthews DG. et al., Centella Asiatica Improves Memory and Promotes Antioxidative Signaling in 5XFAD Mice. Antioxidants (Basel). 2019; 8(12).
(6/25/2021 報告:村上志緒 学術委員)