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研究トピックス

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No.29 化学療法誘発性口腔粘膜炎におけオリーブオイルとアロエベラの効果

がん治療における主要な課題の1つに口腔ケアがある。粘膜上皮の細胞はターンオーバーが早く、抗がん剤の影響を受けやすい。そのため抗がん治療の副作用として口腔粘膜炎が高い頻度で生じる。口腔粘膜炎に関してはエビデンスに基づいた推奨プロトコルが存在しないため管理が難しく、日和見感染症のリスクを高め、強い痛みや不快感により食事も難しくなり栄養失調を引き起こす。高リスクのがんプロトコルにおいておよそ6割の患者で重度の粘膜炎が発生し、特に子供の患者での発生率が高く、患者本人の負担とともに管理をする家族の負担も増す。治療中のみの副作用とはいえ、治療期間において生活の質が著しく損われることにより、化学療法薬の許容用量が制限され、抗がん剤治療が継続が困難な場合もある。

 

がん治療における口腔粘膜炎の病因は複雑なプロセスであり、以下の5つの段階が関連付けられている。

1)フリーラジカルによる組織損傷

2)細胞間シグナル(炎症誘発性サイトカイン)の放出を介した傷害のアップレギュレーション

3)傷害の信号伝達と増幅

4)臨床症状を伴う潰瘍期

5)上皮の完全性が回復する治癒段階

 

これら粘膜炎のプロセスの多くを阻害する可能性のある特性を持ち、且つ、入手しやすい天然の材料であるオリーブオイル(Olea europaea)とアロエベラ(Aloe vera)の口腔粘膜炎の効果を評価するために、小児のがん患者を対象にランダム化二重盲検臨床試験が行われた。

 

急性リンパ芽球性白血病で、グレード3または4(WHOの口腔内有害事象スケール)の口腔粘膜炎に苦しんでいる6歳から9歳の36人の子供を3つのグループに分け、それぞれに70%アロエベラ溶液、エクストラバージンオリーブオイル、および5%重曹溶液を1日4回、スポンジキューブを使用して口腔内の潰瘍に10日間塗布した。実験中は以下のアドバイスが与えられた。

 

・塗布後30分間は食べたり、飲んだり、うがいをしたりしない

・齲蝕原性、柑橘類、および辛い食事は避ける
・フッ化物添加歯磨き粉は使用しない
・柔らかいナイロン製の歯ブラシを使用

 

塗布開始10日後の評価では、アロエベラグループとオリーブオイルグループで明らかに潰瘍の改善が認められ、介入前に平均3.1だったグレードがアロエベラグループでは2.5、オリーブオイルグループでは1.6に下がった。重曹グループでは介入前後に大きな差は認められず潰瘍に変化はなかった。

 

化学療法誘発性口腔粘膜炎に特に効果を示したオリーブオイルはその治癒効果として可能性のある特性は多岐に渡る;

・フェノール化合物、一不飽和脂肪酸、ビタミン、およびミネラルなどの豊富な栄養成分

・腫瘍壊死因子やシクロオキシゲナーゼどの炎症性サイトカインを抑制することによるオレイン酸の抗炎症作用
・フリーラジカルの生成を減らすフェノール化合物のオレオカンタールの抗酸化作用
・粘膜の完全性を低下させるのに重要な役割を果たす核因子-kBを阻害するオレオカンタールの作用
・マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路を阻害することにより、粘膜損傷および口腔粘膜炎の潰瘍期の開始に実質的な役割を果たすマトリックスメタロプロテイナーゼ1および3の活性化を妨害するフェノール化合物の作用

・細菌のタンパク質合成を阻害する抗菌特性

 

MAPK経路の阻害はアロエベラには存在せず、口腔粘膜炎におけるオリーブオイルの優位性として考えられる可能性がある。

 

アロエベラも多くの異なる有益な特性を示している;

・酵素、ビタミン、ミネラル、ホルモン、フェノール化合物、およびアミノ酸を含む

・原因となるサイトカインに干渉するマクロファージの接着を減らすことによって炎症過程を抑制する抗炎症作用

・ムコ多糖類(ヒアルロン酸とアセマンナン)のコラーゲン繊維を再合成および再配列する作用

・アロエベラのゲル内に存在するアントラキノンやスーパーオキシドジスムターゼのフリーラジカルの放出を減らす抗酸化効果

 

なお、アロエベラに関しては過去の別の実験から、放射線療法によって誘発された口腔粘膜炎の管理に効果的である可能性が高く、また、使用方もスポンジキューブによる塗布よりも口をすすぐほうが効果的な可能性がある。

 

また、重曹は口腔内の酸性度を下げて健康的なpHを維持し、粘膜の保湿に役立ち、日和見感染による口腔組織への害を防ぐ抗菌作用があるが、オリーブオイルやアロエに含まれる生物活性成分は含まれないため、 粘膜炎の治癒過程を助けることはないようだ。


比較的小規模の実験のため更なる調査が期待されるが、食用としても安全で安価なオリーブオイルを、現在行われているがん治療における口腔ケアの1つとして利用するのは有益ではないだろうか。

 

〔文献〕
Alkhouli M, Laflouf M, Comisi JC. Assessing the topical application efficiency of two biological agents in managing chemotherapy-induced oral mucositis in children: A randomized clinical trial. J Oral Biol Craniofac Res. 2021 Jul-Sep;11(3):373-378. doi: 10.1016/j.jobcr.2021.04.001. Epub 2021 Apr 12. 

(4/20/2022 報告:河野加奈恵 学術委員)

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