研究トピックス
No.26 自己免疫性の炎症での
ヘンプシードオイルと月見草オイルの炎症抑制効果
免疫反応を調節するヘルパーT細胞(Th細胞)の一つであるTh17細胞は,末梢組織と中枢神経系の両方の炎症を誘起し,ヒト多発性硬化症などの自己免疫性神経炎症性疾患に関係しているとされている。STAT3は,Th細胞の機能性の発現に必要であり,自己免疫性脳脊髄炎の急性期にmTORシグナル伝達を介し,脳において活性化されることがわかっており,mTORを阻害するラパマイシンは,調節因子としてFOXP3+の誘導を促進する。
ヘンプ(アサ科アサ属Cannabis sativa)の種子油(ヘンプシードオイル)やツキミソウ(アカバナ科マツヨイグサ属Oenothera biennis イブニングプリムローズ)の種子油(月見草オイル)は,炎症を伴う不調を改善するなど健康に寄与する食品として好まれている。
この研究では,自己免疫性脳脊髄炎におけるリンパ節でのFOXP3+,STAT3,およびIL-17遺伝子の発現に対するヘンプシードオイルと月見草オイル(以下、ヘンプシード/月見草オイル)の影響を検討している。
自己免疫性脳脊髄炎マウスは,ヒト多発性硬化症の動物モデルであり,マウスのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質ペプチドによって誘発した。マウスは対照群とヘンプシード/月見草オイルを摂取する介入群に分けて,脊髄の組織学的所見を評価するとともに,リンパ球におけるFOXP3+,STAT3,およびIL-17遺伝子の発現を調べた。
その結果,ヘンプシード/月見草オイルは,自己免疫性脳脊髄炎マウスのSTAT3およびIL-17遺伝子の発現を減少,FOXP3+遺伝子の発現を増加させ,重症度を軽減させたことが確認された。組織学的所見では,ヘンプシード/月見草オイル摂取マウスで有意な改善を示した。
これらより,ヘンプシード/月見草オイルが,自己免疫性脳脊髄炎による脊髄の炎症を抑えることが確認され,ヒト多発性硬化症など自己免疫性疾患の予防や症状改善のための機能性を有する可能性が示唆された。
ヘンプシードや月見草オイルを取り入れた食事が健やかさにつながることは喜ばしいことと言えるだろう。
参考)
Th17細胞:
白血球の一種であるヘルパーT細胞(Th細胞)の一つであり,サイトカインであるインターロイキン(IL)-17を産生,炎症を誘発し,自己免疫疾患の病態形成に密接に関与していると考えられている。
STAT3(Signal Transducer and Activator of Transcription 3シグナル伝達及び転写の活性化因子3):
インターフェロンやインターロイキンなどのサイトカインレセプターが細胞内にシグナルを導入するために必要な転写因子群の総称で,現在までにSTAT1~6までが知られている。JAKファミリーと呼ばれるチロシンキナーゼによりリン酸化を受けて核移行し,標的遺伝子の転写をONにする(「No.22 ヒノキ葉抽出物の抗炎症作用のメカニズム」の参考「JAK-STATシグナル伝達経路」参照)。
mTOR(mechanistic Target Of Rapamycin エムトール):
細胞内のシグナル伝達を通じて,細胞の増殖や代謝を調節する酵素。セリントレオニンキナーゼに分類されるプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)の一種。がんや代謝異常に起因する疾患では,この酵素による調節に不具合が生じているとされている。
FOXP3+(forkhead box P3 フォークヘッドボックスP3):
スクルフィンとも呼ばれる免疫系の応答に関与するタンパク質でFOXタンパク質ファミリーの一つ。FOXP3+の発現により調節性T細胞(Treg)は炎症抑制の機能が誘発されるなど,調節経路のレギュレーターとして機能するとされている。
〔文献〕Rezapour-Firouzi S, et.al., Hemp seed/evening primrose oil affects expression of STAT3, IL-17, and FOXP3(+) in experimental autoimmune encephalomyelitis. Res Pharm Sci. 2019 Mar 8;14(2):146-154.
(3/5/2022 報告:村上志緒 学術委員)